AERA STYLE MAGAZINE × L.L.Bean
Life with L.L.Bean
L.L.Beanのある暮らし
都会を離れ、自然と人をつなぐ蒸留家
江口 宏志
本好きに愛された東京の書店の主から、房総半島の広大な敷地で原料作りから行う
『mitosaya(ミトサヤ)薬草園蒸留所』の主となった江口宏志さん。
ミトサヤには“実”と“莢”の意味が込められ、自然から生まれる実はもちろん、
その過程の莢をはじめとしたさまざまな産物からモノづくりを行っている。
家族やスタッフ、動物たちに囲まれながら大きくシフトした田舎暮らし。
それは「好きなものを作る、刺激にあふれた日々」だった。
都会の本屋から大自然の蒸留所へ
「朝はだいたい5時半ぐらいに起きて、まず敷地内をうろうろします。ここが壊れているなとか、これがちょっと汚れているなというところが、どこかしら見つかるんですよね。それを直したり奇麗にしたりして回ります。飼育している鶏の様子も気になるので。そのあと、朝食をとり子どもを学校に送りながら、妻の祐布子と一緒に犬の散歩に出ます。帰りに彼女が『よもぎを採りたい』と言ったらよもぎを採って帰ったり……、するとスタッフがやって来る時間になり、みんなで作業が始まります」
ここは房総半島のほぼ中心にある江口宏志さんが運営する『mitosaya薬草園蒸留所』。江口さんは都内の人気書店『ユトレヒト』の主だったが、蒸留家を目指してドイツに留学。
帰国後に元薬草園だったこの場所を、妻で人気イラストレーターとして活躍していた山本祐布子さんとセルフリノベーションしながら、『mitosaya』を開いた。「都内での暮らしと百八十度違う日々です。自然ベクトルは全くなかったですが、今は体を動かさないといけない暮らしなので、毎日よく眠れます(笑)。
今の住まいも夫と2年かけて作りました」と山本さんは、大きく舵を切った生活を冗談を交じえて話す。大胆なシフトには、どんな思いがあったか、江口さんは語る。
「本を扱っていたということもあって、本の影響を受けやすい環境にありました。
『ユトレヒト』は個人的な小さな書店で、自分の興味がある本を集めていたんです。それを読んでいくと、自分がその選んだ本に影響を受けていくんですよ。
僕は田舎育ちだったこともあり、自然に関する本が多く並んでいたかと思います。
それらにどんどん影響を受けるなかで、自分も何か技術を手にして自然と共生する場所が作れるだろうかという思いが湧き上がってきたんです。
そこで前から興味のあった蒸留の技術を学びにドイツへ行きました」
自然からの産物を蒸留酒へと変化させることは、味わえる時間を数十倍、数百倍へと変えることができる先人の知恵である。
江口さんは蒸留家として、薬草やハーブといった材料から育てて、現在約50種類の蒸留酒を生み出している。彼はそれを「自然と人との間に入っている感じ」だと話す。
面白い出合い、新鮮な刺激であふれる田舎の生活
そしてこの地での暮らしは刺激の宝庫のようだ。「田舎の生活には刺激がないという人は少なくないと思いますが、僕からしてみたら知らないことばかり、楽しいことばかりなんですね。
この間もエビ漁から網が揚がってくるから、(なにがかかっているか)見に来ませんか?と誘われて見に行ったんです。
そうするとフグがかかっていたりアワビやサザエ、サメもいたりして、地元のシェフは料理に使うとか、農家の人は海藻を肥料にしようと言っていたりする。
じゃあ、僕はなにか飲み物を造ってみますね、と……。都市では会う人も似た環境にいる人に定まりがちです。
全く違う世界の人との出合いがあるのもここの面白さだと思っています」
田舎だからこそ享受できる刺激を味わう江口さん。
それを実現させている“自然と人の間に入る”とは、いわばコントロールできない存在と対話しながら確かなものを生み出し、人々に届けるということ。
そんな暮らしを続けるうえで相棒となるモノたちを選ぶ際に、大切にしていることがあるという。
機能性だけじゃない“心躍る”ウエア
「泥の中で作業したり、水浸しにもなりますから撥水や防水性、作業時の腕の可動域も重要です。けれど機能のみを求めることはありません。
空間においても同じ考えですが、自分が身に着ける物は色みが奇麗だったり、経年によって味わいが生まれたり飽きのこないデザインだったり……。
L.L.Beanのアイテムは10代の日本にショップがない頃から、カタログを取り寄せてオーダーしていました。
カヌーやキャンプが好きだったんですが、気の利いたアウトドアウエアがないと言ったら、友人が教えてくれたような記憶があります。
考えてみると、当時から求めているものは変わらないかもしれませんね。アクティビティや作業に必要な機能さえあればよい、というのではなく、それを身に着けることで少し自分の気分が高揚し、うれしくなるようなものを使いたい。
せっかく好きなことをやっているのに、ただの作業着ではつまらないと感じてしまう。だって、僕らは作業をするだけのために『mitosaya』にいるのではなく、物を喜んで作るためだと思っているのだから……。
そういう意味でも、道具やウエアも、それにふさわしいものを選びたいんです。私物のフィールドコートは裏を自分でカスタマイズし、長年愛用しているんですよ」
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